1.起訴前の段階
覚せい剤に関する罪の場合、身体解放の可能性が低く、起訴される確率もかなり高いのですが、起訴前の段階では、弁護士はあきらめることなく勾留からの身体解放及び不起訴を目指した弁護活動を行っていくことになります。また、暴行脅迫など違法捜査が行われたことを察知した場合には、直ちに抗議するとともに、後日のために証拠を確保するように努めます。
2.保釈請求
起訴後の場合は、保釈請求を行っていくことになります。覚せい剤に関する罪の場合、保釈が認められる可能性は、正直高いとはいえません。特に、罪を認めていない場合や、所持量が多い場合、同種前科が多い場合などは、保釈が認められる可能性は低くなります。その場合でも、弁護士は、保釈が認められやすくなる条件を整えて、保釈が認められるよう粘り強い弁護活動をしていくことになります。詳細は「保釈」をご覧ください。
3.違法捜査への対応
特に、覚せい剤に関する罪では、捜査活動の違法性が問題になることが多くなります。たとえば、弁護士は、違法な逮捕に基づく身体拘束状況下で採尿された尿の鑑定結果は、違法収集証拠であり、裁判で証拠として採用すべきではない、という主張をすることがあります。実際に、このような主張が裁判で認められたケースがあります。
起訴状における犯罪事実の記載について覚せい罪使用の罪に関する事件で、被告人が罪を認めず自白していない場合、捜査機関の捜査だけで使用日時や場所を特定できるケースはまれです。これは、覚せい剤使用の罪の場合、「被害者」が存在しないので、被害者から事件内容を聴取することができず、また、当然ながら他人の目に付かないところで使用されることが多いため、第三者による目撃情報なども得られないからです。このため、起訴状に記載される起訴対象となっている犯罪事実(公訴事実といいます。)は、次のようになることが大半です。
まず、犯行日については、覚せい剤が最大2週間弱前の使用まで検出可能であるということを理由に、採尿日から逆算して、採尿前2週間程度の期間として記載し、犯行場所は、その期間中における被疑者の行動範囲をカバーできるだけの幅広い内容で記載されることが多いです。また、使用方法についても、日時場所と同様に、使用方法の詳細が不明であるため、抽象的な記載となることが多いです。
具体例としては、「○月○日ころから○月△日ごろまでの間、○○県内またはその周辺で・・・・覚せい剤を使用した」というような記載となります。最高裁も、このような幅の広い記載例も、事案によっては許されるという判断をしています。
しかし、法律上は「出来る限り日時、場所、方法を以て」特定しなければならないとされています。また、公訴事実があいまいに広いままでは、反論が効果的にできません。このため、弁護士としては、可能な限り、使用した日時や場所、方法を特定するよう主張していくことになります。
情状弁護覚せい剤に関する罪の場合、尿中から覚せい剤が検出されれば、それを決定的証拠として起訴され、裁判でも有罪と判断されてしまうケースが大半です。そのように有罪判決が免れない場合でも、弁護士は、執行猶予が勝ち取れるよう、あるいは少しでも刑が軽くなるよう、情状に関する弁護活動を行っていきます。
覚せい剤に関する罪では、被害者が存在しないので、示談はできません。一般には、初犯か、それとも同種前科があるか、所持量、使用量、使用頻度などが、執行猶予や量刑の判断に影響してきます。初犯の場合、所持量等が多くなく、他の事情が特に悪質でなければ、執行猶予がつくケースが多くを占めます。
弁護士は、被告人本人や関係者から、被告人に有利となりうる事実を聴取し、これを積極的に主張していくことになります。弁護士は、同種前科がなく初めての使用であること、被告人の薬物依存の程度が軽いこと、治療施設への通所のめどをつけていること、被告人を監督できる身元引受人がいること、経済的にも立ち直れる目処があること、薬物販売組織の一員などではなく末端の一使用者に過ぎないことなど、被告人に有利な事実を証拠立てて主張し、執行猶予や軽い量刑を目指していくのです。
覚せい剤取締法覚せい剤については、覚せい剤取締法において、製造、輸出入、所持、譲渡、譲受、使用等の各行為に対して、厳しい罰則規定が定められています。すなわち、覚せい剤の場合、その流通過程における関与行為全てが、法律によって厳しく禁止され、刑事罰の対象になっているということです。
特に、営利目的の覚せい剤輸出入・製造は重罪とされており、法律上は最高で無期懲役及び1千万円の罰金がともに科されうることになっています。
覚せい剤の効力と中毒症状覚せい剤取締法で規定する覚せい剤に該当するもののうち、刑事犯罪で問題となる主な薬物は、フェニルメチルアミノプロパンです。通称として「エス」「スピード」などと呼ばれることもあります。この薬物は中枢神経興奮作用を有しており、気分爽快、疲労減退、多幸感など効力があります。このような薬効を求めて覚せい剤を使用する人が後を断ちません。そして、その覚せい剤を求める人たちに覚せい剤を販売する組織も、毎年のように摘発されています。
他方、覚せい剤使用に伴う中毒症状としては、食欲不振、消化器系の症状、血圧上昇などがあり、さらには、めまい、不眠、頭痛などの症状が表れることもあります。重症の場合は、幻覚が見えたり、錯乱を起こしたりなどで苦しむこともあります。
覚せい剤の検出方法覚せい罪に関する罪は、警察官が街中で不審者や不振車両を発見し、これに職務質問をかけ、所持品検査を行った結果、衣服や車中から覚せい剤と思しきものを発見する、といった経緯で発覚することが多くあります。また、自動車検問などをきっかけに発覚する場合もあります。
覚せい剤と思しきものを発見した場合、所持者本人の面前で、予試験(現場で行える簡易な試験方法のことです。)の方法を説明し、同意を得たうえで、試薬を用いた予試験を実施し、その結果(試薬が青藍色に変色する。)を直接確認させる方法が採られています。
その後、所持者を被疑者として逮捕したうえで、被疑者から採尿し、その尿について正式な鑑定を行っていくというのが通常の手続です。
覚せい剤の検出期間代謝の程度については個人差が大きく、また、同一人物でも、体調等によって大きく左右されます。尿中覚せい剤の場合、初使用では使用から4日目程度、常用者で7日目~10日目程度が検出可能な期間の一応の目安とされていますが、最大で12日目前後まで検出される可能性がある、とされています。